顕宗天皇19.清寧天皇
19-2.歌垣と志毘臣の反逆


皇統断絶の危機に、播磨国(現 兵庫県)で見つかった貴種、意祁王(おおけのみこ=兄)と袁祁王(をけのみこ=弟)。早速大和国(現 奈良県)に呼び戻され、政治を取ろうと思ったら、、

待ち受けていたのは当時の実力者・志毘臣(しびのおみ)です。まず、志毘臣は袁祁王を挑発します。タネはやはり“女”。

ある歌垣(男女が集まって、歌を歌い合い、求愛する習俗)で、志毘臣が、袁祁王が娶ろうとしている美女オウオの手を取って、袁祁王に向かって歌で問いかけます。

天皇の宮殿の、
あっちの軒のすみが傾いていますよ~

この歌の後をつけてくれと頼み、今度は袁祁王が歌います。

大工の棟梁が下手だったので、
すみが傾いてしまった~

そこで、志毘臣がまた歌います。

大君の心が緩んでいるので、
臣下の者の幾重も囲んだ柴垣の中に、
入り込めないでいる~

これに対して、袁祁王が歌います。

潮の流れの速い、
波が折り重なっているところを見ると、
遊んでいるマグロのひれに
妻が立っているのが見える~

マグロの中の大きなものをシビマグロと言います。歌の中でも、袁祁王は原文「しび」と言っています。これは、志毘とかけており、要するに「おふざけはやめておけよ、オレの女にちょっかい出すな」という、袁祁王の志毘臣に対する警告でしょう。

志毘臣が歌い続けます。

王の御子の柴垣は、
何度結びをしっかり結んでこしらえても~
すぐに切れる、
すぐに焼ける~

これに対して、袁祁王が続けます。

大魚を求める海人がいる。
巨大マグロを突きたい
と思っている海人がいる~
その海人がいる限り、
俺はその海人を恋しいと思う~
巨大マグロは結局突かれるのだ~
志毘臣よ、
結局お前は自分で自分の首を絞めている~

このように二人は夜通し、いがみ合いながら歌を掛け合いました。

その朝、袁祁王は兄の意祁王と相談して曰く「宮廷の人たちは、朝には天皇のところに来て、昼には志毘臣のところに集まっている。今ちょうど志毘臣は寝ている頃。今からちょっと、殺っとく?」

そう言って二人は早速軍を編成して、志毘臣の家を包囲、志毘臣を殺しました。

ようやく目の上のたん瘤が無くなった二人。では、どちらが帝位につく? ということで、お互い譲り合います。

兄の意祁王が、弟の袁祁王に曰く「播磨国(現 兵庫県)で落ちぶれていたオレたちが、都に来られたのは、オマエが“オレたちご落胤”と歌ったからだ。オレっちが兄だけど、オマエのあの歌がなければ今の俺らはないから、オマエが天皇やれ。よろ」

そこで、弟の袁祁王が即位します。顕宗天皇です。

※画像は、「顕宗天皇」Google画像検索結果のキャプチャー

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【関連キャラ】
顕宗天皇 - 父の復讐に燃え、雄略陵破壊を目論む激情家
仁賢天皇 - 引っ込み思案も冷静な頭脳で弟の汚名を救う
志毘臣 - ふらっと都に帰った皇子のオンナを奪って挑発

【古事記の神・人辞典】
・意祁王(後の第二十四代仁賢天皇
・袁祁王(後の第二十三代顕宗天皇
オウオ
志毘臣

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